カツ丼

 日本の洋食は、東洋軒と西洋軒という大きく分けてこの2派から発祥しています。僕の父親は大正10年頃、小学校を出てすぐに、この東洋軒に見習いとして奉公に出ました。東洋軒は揚げ物を得意としていました。現在皆さんが大好きでよく食べるカツ丼はこの頃に東洋軒が考え出したものです。父は独学で英語・仏語・中国語を勉強し、話せるし書く事ができました。中国語などはペラペラでしたね。20代後半に満鉄に就職するまでこの東洋軒で修業しました。上野の西洋軒は今もありますが、三田(芝)の東洋軒がどうなったのか僕はよく知りません。

 そして今の日本のフランス料理はと言いますと、帝国ホテルの系列と横浜のニューグランドホテルの系列に大きく分かれますが、父は最終的には帝国ホテルに務めることとなり、僕はニューグランドホテル系列の修業をしました。どこに大きな違いが見られるかと言いますと、盛りつけ方です。帝国ホテル系は平面的に魅せる盛りつけ方で、ニューグランド系は立体的な造形を特徴としました。僕は、料理というものは正しい、誤りというものはないと思っています。基本をきちんと学べばいろんなバリエーションを作って行く事ができるものと思います。

 当時、帝国ホテルは、東京・博多・長野の3軒だったと思います。父は博多帝国ホテルに居た時に(昭和33年の4月です)、昭和天皇と香淳皇后が福岡に巡幸された際、両陛下に料理をお出しするお役目をいただきこの大任を果たしたのでした。父はこのことをずっと誇りに思っていたのではないでしょうか。

 ちなみに、下にあるのがこのときの父の直筆のメニューです。父の性格を物語るような几帳面で美しい筆跡だなぁといつも思うのです。

【無題】

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